能「西王母」とは

     桃の中から唐子衣装の童子が
     桃の中から唐子衣装の童子が

「人生80年」という言葉がありますが、統計では2014年の日本人の平均寿命は男性が80.50歳 、女性が86.83歳といいます。古来より私たちは「健康で長生き」を理想としてきました。そのため不老長寿をテーマーとした話も数多く残されています。能「西王母」もそうした話が登場します。

 

それでは、能・鉄仙会(http://www.tessen.org/)のHPから引用して、その舞のみどころを見てみたいと思います。尚、銕仙会は江戸中期の十五世観世左近元章のときに分家し、現在に至るまで能界に重きをなしている観世銕之丞家を中心とした演能団体です。

 

本作では、西王母の花園に咲く、三千年に一度実を結ぶ桃の実が、話題の中心となっています。西王母とは中国で信仰されている女神で、中国の西にある仙郷・崑崙(こんろん)山に住んでいるとされています。その桃の実は不老長寿の妙薬とされ、能楽でも本作や〈東方朔(とうぼうさく)〉に描かれています。

 

桃の実というのは、古代以来、中国や日本において、不思議な力をもつ果実であると考えられてきました。こんにちでも理想郷の代名詞として知られる中国の神仙世界のひとつ「桃源郷」は、その名にも「桃」の字が入っているように桃とは縁が深く、山の中にあって桃の林をぬけていった先にある世界とされていました(陶淵明『桃花源記』)。

 

また日本神話でも、黄泉の国から逃げ帰るイザナギの守は追いかけてくる鬼たちに向かって桃の実を投げつけ撃退したとされており、これらの神話・伝説が示すように、桃の実や桃の木には神仙に通じる不思議な力や強い霊力がそなわっていると考えられていました。 その不思議な果実である桃が皇帝に献上され、神仙の力によって治世が祝福されるというのが、本作の主題となっています。

                             能・鉄仙会  曲目解説「西王母」

 

以上が「西王母」の曲目解説ですが、この話では東方朔(とうほうさく)が登場しません。両者の関連性については能「東方朔」に譲ります。ここでは、曳山・西王母山の名前の由来と桃との関連性について触れておきたいと思います。(写真:河合哲雄)